小高い丘の上。
二人は広大なススキの草原を抜け、見晴らしの良い丘を登っていた。
顧みると、其処は白い草原。
その先にあの森がある。
そして今はもう見えない故郷が在る。
還ることはもう無い故郷の里。
一つ一つの風景に別れを告げるかのように顧みては先へ進んだ。





   〜第9章〜

二人は無言のまま、足を止めることは無く進み続けた。
俯き足場の悪い道を踏みしめながらナルトが呟く。

「このまま隣国へ行くのヤバくない?」
「ああ」
「木の葉の忍者ですってバレバレだってばよ」
「もちろん変化して入っていくさ」
「うん・・・」

会話の語尾が急に元気が無くなったナルトの反応にサスケは怪訝な表情を浮かべる。

「なんだ?どうしたんだ?」
「うん・・・・カカシ先生・・・大丈夫かなって・・・」
「アイツなら大丈夫だ。そんじょそこらの刺客にやられるようなヤツじゃない。そんなことオマエが一番わかっていると思っていたがな」
「わ・・わかってるってばよ!そんなことくらい!でも・・・」
「でも?なんだ?」
「死ぬつもり・・・だってば・・・センセ・・・」
「・・・・・もう、ヤメロ」
「・・・・・ごめん・・・・・」

先のことはわからない。ましてや離れている人間の事の先に起こる事など。
無駄に考えを巡らし、自分達の置かれた立場を忘れてしまうようなナルトの言動をサスケは柔らかく止めた。
ナルトもその事を十二分に判っているからか先の言葉は胸に仕舞い込んだ。
行く先に何が在るのか、自分達がこの先どのような目に遭うのかも判らないのだから、集中しなくてはならない。
敵地が近くなりつつあるこの地で、気を張り詰めていないと自分達の目的は泡となって消えてしまう。

「もうじき隣国の国境だ。巡回の忍も多くなってくる。此処は一先ず変化でカモフラージュするぞ、ナルと」
「変化ねぇ・・・何に?」
「そうだな・・・オマエは女に化けるのが得意だったな」
「お色気の術?」
「ああ・・・服は着ろよ」
「判ってるってば!ホゴシャ面すんなってばよ!」
「オマエのことだ何仕出かすか分からんからな」
「ウッセーよ」
「とにかくオマエは女に変化しろ。もう直ぐ其処が国境だ」
「あいよーっと!変化!!」

一瞬ナルトの全身が白い煙に覆われた。風がその煙を押しのけるように散らして行ったあと其処に現れたのは見るも美しい女性が立っていた。
金の長い髪を後ろで一つに結い上げ、軽装でモダンな服装のどこから見てもか弱い乙女が其処にあった。

「まぁ上出来だな」
「けっ・・・サスケの女の趣味はわっかんねぇってばよ」

どれだけ色っぽく化けてもサスケの表情は眉一つ動かない。
今までもずっとそうだった。
待ち伏せして悪戯で急にお色気の術を使って驚かそうとしても、無表情のまま通り過ぎていかれたこともあったくらいだった。
今回の変化も同様に、サスケの表情は全く変化が無い。
むしろ、ナルトの術を冷静に審査する試験官のような言い草まで飛び出してくる。

「オマエはチャクラにスタミナが在るからな、このまま隣国の宿に着くまでその格好で行くぞ」
「サスケは?変化しないの?」
「するさ・・・服装だけな」
「あ〜・・・スタミナもたないもんねぇ。サスケ君ってば」
「・・・コロスぞ?」
「あー怖」
「変化!」

サスケは厭味を放つナルトを一睨みし、そして印を結んだ。
ナルトの時と同じようにサスケの身体も白い煙で覆われた。そして、その煙が散った後に現した姿はどこから見ても美麗な男性だった。
白のシャツにGパンというラフな格好だったが、服装が変わっただけで顔や髪型は変わっていない。しかも、服装が変わったことでいつもより大人びて男前に見える。
これではかえって目立つというものだ。
ナルトは不服そうにサスケに厭味混じりの台詞を言う。

「ちょっとカッコよくねぇ?」
「普通だ」
「オマエは分かって無いだろうケド、今のサスケかえって目立つってば・・・」
「ウルセェな。オマエは」
「でもばれたら元も子もないってばよ」
「・・・チッ・・・変化!」

小煩いナルトの意見を今回だけは尊重するべく再度サスケは変化する。

白い煙が消え去って再び表れた姿は、普段のサスケとは全く違う雰囲気の人物になっていた。
髪型は普段は顔が隠れるほどの前髪を綺麗に両サイドに流してあった。
トレードマークの後ろの癖毛はストレートに、服装は先程の服装と変わってはいなかった。しかし、一瞬サスケを知る人物が見ても分かりにくいことだろう。
髪型と服装はそれだけ人の雰囲気を変えてしまうものなのである。

「おーいいんじゃない?カッコいいのは目立つけど、ま・しょうがないってばね」
「オマエに術のことで文句を言われたくは無い」
「変化と影分身は俺の方がウマイもんねー♪」
「それだけだろ?」
「ちがわい!」
「とにかく急ごう、日も暮れ始めている。こんなところで油売ってる場合じゃないぞ。ナルト」
「ああ。行こう」

二人は身支度を終え再び隣国めざして歩き出した。
小高い丘を上り詰めた眼下に広がる光景は、繁栄している隣国の街並みだった。
二人は暫し山風に煽られながらその眼下の風景を見つめていた。
この街のどこかに自分達の探している里の敵がいる。
そう思うと、この街ごと焼き払ってしまいたくなる心境に駆られる。
ナルトは、眼下の景色を凝視しながら辿ってきた道筋の悲惨な光景を脳裏に浮かべていた。
そしてまだ顔も知らない里の敵を思い、拳をきつく握り締めるのだった。

「待ってろよ・・・ゼッテェ敵は討ってやっからな・・・」



ナルトの呟きは唸る風に掻き消され、誰の耳に入ることは無かったのだった。








続く

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