悲しい動物達の亡骸を横目に、ひたすらサスケとナルトは走り続けた。
周りの背景が解けて見えなくなるように二人は疾走した。
特にナルトが動物達の亡骸のことを意識しているようだった。
地面を蹴るナルトの身体からは無言の嘆きが聞こえていたのだった。







   〜第8章〜

あの大木の根元で瑠璃色の小鳥に泣かないと誓ったとはいえ、道端にゴミのように転がっている動物達の亡骸を完全に無視することなどナルトにはできない事だったのだ。
優しいナルトだからこそそうなるのかもしれない。
忍者でいえば失格になるのかもしれないが、ナルトはそれでもいいと思っていた。
あの時波の国で己の忍道を通すと誓った瞬間から。
雑木林の中の獣道を駆け抜けきると、一瞬明るい草原へと飛び出した。
長く、辛い森の中を抜けた瞬間だった。
自分達の背丈ほどもあるススキの草原。
足元は湿地帯なのかジュクジュクして酷く歩きにくいものだった。

「ナルト、脚を取られるな。もしかすると底なし沼に出くわすかもしれないからな」
「わかってらぁ」
「手間ぁかけさせんなよ」
「ウルセ・・・」

二人はガサガサとススキを掻き分け先に進み始めた。
殆ど自分達と同じ高さのススキに阻まれて中々先には進めない。
しかも、足元はひどく水捌けの悪い地質の為に踝まで脚がめり込んでしまう。
予想以上に体力と気力を吸い取られる場所だった。

「うっとーしーってばよっ!ここ」
「仕方ないだろう、此処からの方が見つかりにくい。それに誰も此処を歩くものなどいないからな」
「わかってるってばよっ!サスケは説教がましくってジジイ見たいだってばっ!」
「大きな声を出すな。この辺に敵がいないとも限らないんだぞ」
「へいへい・・・」

あからさまに不満そうなナルトの表情を、サスケもあからさまに無視し、目の前のススキを掻き分け歩く。
この、やり取りもアカデミーの頃から変わっていない。
腐れ縁ならではの二人の日常会話。
一瞬ススキを掻き分けるサスケの手の動きが止まり身を屈め息を潜める。

「どうしたってば?サスケ?」
「シッ・・・屈め・・・ナルト」
「あ・・・?」
「いいから・・・っ!」

サスケの様子を見に傍までやってきたナルトの頭をグイッと引き下げ無理やりにナルトの身を屈めさせる。

『何だってばよっ!サスケっ!!』
『シッ・・・・誰かいる・・・』
『敵か・・・・?』
『わからん・・・殺気は感じられん』

二人は身を屈めて息を潜め、あたりの気配に意識を集中させる。
聴覚を研ぎ澄ませ、気配が感じる箇所を絞り込もうとする。
研ぎ澄ませる聴覚にはススキの草原を撫で走る風の音しか聞こえない。
サスケはある一方を向き更に気配のする方向へ意識を集中させる。
気配の先はナルトにも察知できていたようだった。

『この気配・・・』
『ああ・・・どっかで・・・』

意識を研ぎ澄ませた先から感じる気配は、二人の知っている人物のものだった。
二人は屈めていた身を起こし、背中に装備した忍刀を一振りした。
・・・・ザン!・・・・・
ススキの繊維を切り裂く音と共に振り下ろした近辺のススキがブワリと散る。
ススキの壁を取り除いた先に現れた人物、それは・・・。

「サスケ・・・ナルト」
「・・・やはりな・・・」
「カ・・・カカシ先生っ!」

目の前に現れたのは自分達のよく知る人物、木の葉の里特別上忍のカカシだった。

「久しぶりだな・・・二人とも」

懐かしい人物の登場に、元々人懐っこいナルトはカカシの傍に駆け寄る。

「何やってるんだってばっ!こんなところでっ!木の葉の里大変な事になって・・・!」

自分達が見た木の葉の現状をカカシに伝えようと必死に言葉を繋げて声を荒げるナルトだった。
カカシは、悲壮な影をダークグレイの瞳に映し、少し目線を下げて静かにナルトの言葉を絶つ。

「わかっている・・・俺も今戻るところだったんだ」
「無事だったんだな・・アンタ」
「ああ・・・お蔭様でね」

相変わらず、カカシの対しては皮肉めいた台詞を掛けるサスケだった。
カカシもその点は変わっておらず、何事もなく受け流す。
一人気を荒げているのはナルトだけだった。

「アンタ木の葉に戻るのか・・・?」
「ああ・・・・」
「もう、皆殺されちゃってるってばよ・・・」
「ああ・・・・」
「何の為に戻るんだ・・・?」
「親友の墓が気になるからな・・・」
「それって・・・慰霊碑だってば?」
「ああ・・・」

カカシは知る由もなかった。
里が予想以上破壊されつくされ、略奪され尽くされたことを。
ナルトは一瞬言うべきではないと思ったが、徐にベストの巻物入れから慰霊碑の欠片を取り出した。
そして、カカシの方へ、その欠片をよく見えるように差し出す。
それを見たカカシの瞳の色が一瞬深い漆黒へと変わったように見えた。

「・・・・・そうか・・・・」

全てを悟ったカカシは瞳を伏せた。もう戻らなくてもいいのだとカカシはクルリと背中を見せた。
二人にはカカシの瞼が微かに震えているように見えた。

「すまなかった・・・ナルト、サスケ」
「え・・・?」
「俺はちょっと用事ができたから行って来るわ」
「カカシ・・・」
「先生・・・」
「運がよければ・・・また此処で会おうな・・・二人とも」

サスケとナルトは無言のままその背中に向かって頷いた。
ピンと張り詰めたカカシの決意を悟った二人にはこれ以上かける言葉は見当たらなかった。
カカシは少し後ろを向き二人の表情を見たようだった。
そして成長した二人を暫し眺め薄らと微笑を浮かべた。
ナルトとサスケにもカカシの笑みは顔宛ごしにもしっかりとわかった。
今生の別れ。
今この場面にはふさわしい言葉なのかもしれない。
一瞬突風が吹き視界が塞がれる。
再び二人が目を開けたときには、恩師の姿は無くなっていたのだった。

「サスケ・・・・」
「ああ・・・・カカシは死ぬつもりだ・・・・」
「うん・・・・」

ナルトの考えとサスケの考えは一致していたようだった。
ナルトの碧眼が薄らと涙で潤むのだった。
戦いに身を投じ、死と隣りあわせで生きる忍の世界。
死は、あまりにも普通で当たり前に訪れる者。
誰も止めることは叶わず、そして己の意思とは関係なく突然目の前に現れる。
死の足跡は、二人にもそしてカカシにも確実に聞こえてくる序曲だった。

「行こう・・・・ナルト」
「うん・・・・」

二人は再び聞こえ来る序曲に誘われるかのように、歩み始めたのだった。
目指すは隣国。
里の敵を探す為に・・・。
そして己の忍としての死に場所を探しに・・・・。





続く
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