痛みを伴わない恋ってあるんでしょうか・・・?
         心が痛くならないような恋って・・・・

         どうか教えてください・・・・
         心が壊れない恋を・・・・

         誰か教えてください・・・・
         人を傷つけない恋を・・・・


         どうか・・・・
         どうか・・・・

         ただ・・・あの子と一緒に居たいだけなんです・・・・




      金の光銀の光(後編)




すやすやと安らかな寝息を立てるナルトを持て余しながらも、
なんとか一握りの理性を保ちながら起こさないように寝室へと抱きかかえ連れて行く。


季節は秋口、日中はまだまだ暑いとはいえ夕方にもなれば大分涼しくなってくる。


修行に一途なナルトのことだから風邪でも引かせでもすれば、無理をしかねない。
修行だけならまだしも、任務を命ぜられたときはなおさら自分の体調のことなどそっちのけで
無理をすることは目に見えていた。


「可愛い生徒のためだ」


などと言い訳がましく綺麗な寝顔のナルトを別途に横たえフワリとシルクの毛布を掛けてやった。
心地よい感覚の中に気をよくしたのか、微かに微笑んでクルリと毛布に包まるナルト。
更に心地よい眠りへと誘うようにカカシはナルトの前髪をサラサラと撫でた。


「・・・・ん・・・・」


ナルトがもぞもぞと寝返りをうつ。
その寝顔はカカシの方に向けられた。

ズキ・・・ッ!

どうしようもない熱い衝動に駆られるカカシの至高回路はまさに天使と悪魔の葛藤が繰り広げられている最中だった。
ぷっくりとした誘うような唇に口付けたい衝動を抑えるのに必死だった。

『は・・早く部屋を出ないと・・・っ』

分かっている・・・けれどもカカシ足は縫い付けられたようにその場から離れようとしてくれない。


『ダメだぞっダメだっ!!この子は生徒・この子は生徒・この子は生徒・この子は生徒・ここは・・・こ・・この子はぁぁぁ・・・せ・せ・せ・生徒ぉ・・・ぉぉ・・』


意思とは反し、カカシの意識は徐々にナルトの唇へと接近して行った。
その刹那『眠ってたら・・・・キスだけだったら・・・バレないよね・・・?』
悪魔が勝利した瞬間だった。
上忍カカシ・・・忍びといえど彼も若い成人男性なのだ・・・。


『柔らかそうな唇・・・』


目を細め、うっとりとナルトの唇に自分の唇を寄せていく。
気づかれないように、そっとそっと近付く。
カカシが完全に瞳を閉じた瞬間、唇に優しい温もりと、柔らかな感触が伝わってきた。
触れるだけのキス。気付かれないように、傷つけないように、そっとそっと優しく・・・。
どれくらい時間が経ったのか。
カカシにはそんなことはどうでも良い事だった。
ただ今は、ナルトに触れることで頭が一杯だった。
カカシは名残惜しそうに唇を離す。徐々に離していきながらカカシは目を開けていった。

その時、カカシは硬直した。

目を開けたとき目の前に広がるのはナルトの寝顔だったはず・・・なのに・・・?
なのに、目の前にあるのはパッチリと目を覚ましているナルトの顔。
驚きと、罪悪感と、羞恥とでカカシの頭は交通渋滞を起こしパニックになっていた。

「ナ・・ナナナナナナナナナ・・ナルっ」

吐く息と吸う息がごっちゃになって思わず咳き込む。
一方のナルトはきょとんと「何があったのか・・・?」というような顔をしている。

「す・す・す・すまん・・ナ・ナ・ナ・ナルトっっ!!」

タジタジになっている恩師を目の前にナルトは増々分からないといった表情を浮かべ

「せんせー・・?何謝ってるってばよ?」

と聞く。
「いやっ・・・その・・・あの・・・なんだ・・・えっと・・・」

あせあせと一生懸命に理由を話そうとするカカシの滅多に見れない慌てぶり様が、
なんだかとても滑稽に見えてナルトは『ブーッ』と吹き出した。

「あはっお・おかしいってばよ!カカシせんせー!!あっはははっ」
ナルトの大笑いする様子をあっけに取られるカカシ。
なんだかその様子を見て自分がしたことがとても可笑しなことに思えてきてカカシも笑った。
ひとしきり笑ったところでふと二人の目がかち合う。
しばしの沈黙。
沈黙を破ったのはナルトだった。

「オレ・・・さ・・・」

「ん・・・?」

「自分のこと変だって思ってた・・・」

「どうして?」

いきなりの言葉で話の筋が見えてこないカカシはナルトに疑問を返す。

「オレさ・・・ずっとずっとある人のこと考えると・・・胸が苦しくなってさ・・・・眠れなくなるってば・・・」


ツキン・・・・


カカシの胸に棘が刺したような細い痛みが走った。


ツキン・・・ツキン・・・ツキン・・・・


その人って誰なの・・・?俺の知らない人・・・?俺意外の人・・・・?
いつか聞くことになると思っていたその言葉。
ナルトは普通の少年。いつか大人になって恋をして、そして結ばれて・・・。


ツキン・・・ツキン・・・ツキン・・・


カカシは痛みを隠しながら、平常心を保ちクールないつもの仮面を被る。
痛みは慣れている。傷は・・・もう慣れっこ。

「そっか・・・ナルトはもしかしてその人の事、好きなんだろうね」

「好き・・・?」

「そう・・・愛情の方の『好き』」


ツキン・・・ツキン・・・ツキン・・・

胸の奥のガラスに無数の針が音を立てて刺さっていく。

「愛情・・・・?」

「そう・・・・愛情・・・・友達同士の『好き』でもなく、先生生徒の『好き』でもない『好き』・・・・違うか?」

そう・・・確かに違う・・・サスケやサクラ、イルカに対しての『好き』とは全く違う『別の好き』
ナルトは胸の奥が『きゅぅ・・・』っと縮むような切なさを感じて背中を丸め手を胸に押し当てうずくまった。
その様子にカカシは慌てる。

「どうした?ナルト。気分でも悪いのか?」

そう聞くカカシにナルトはぶんぶんと頭を横振って答えた。

「オレ・・・変だって言ったの・・・そーゆー意味じゃないってば・・・」

「ナル・・・!」

顔を上げたナルトの蒼い瞳からは大粒の涙が幾重にも幾重にも流れ落ちていた。

「オレ・・・オレ・・・・その・・・『好き』の意味・・・理解できたけど
・・・でも・・・伝えちゃ・・・ダメだって・・・分かった・・・て・・・ひっ・・・うっ・・・うっ」

カカシには意味が分からなかった。
どうして素直なナルトがここまで息を殺しながら泣いて、諦めなくてはならないという恋の意味が。

「何故だ?ナルト・・・どうして『その人』には『好き』っていっちゃいけないんだ?
言って見ないことにはわからないだろ?どうして最初から諦めているんだ?ナルトらしくないじゃない」

カカシは嗚咽を漏らすナルトの背中をそっと撫で、宥める様に聞いた。
「・・・・っ・・・・っ」

しばらく泣くナルトの背中を優しくただ優しくさすり落ち着かせるカカシ。
落ち着いてきたのかナルトは泣き止み、顔をうつむけたままじっとしていた。

「せんせー・・・?」

「ん・・?」

「笑わないで・・・聞いて欲しいってばよ・・・」

「ああ・・笑わないよ・・・・」

にっこりと微笑むカカシだが、内心心臓は激しい鼓動を鳴らしていた。
ナルトの口から誰の名が伝えられるのか恐怖だった。
近くに居るナルトにこの鼓動が聞こえてしまうのが恐かった。
何もかも見通すようなアイスブルーの瞳に全てがばれてしまうのではないかと・・・。
この気持ちが・・・誰の名前が出てこようとも絶対に嫉妬してしまうであろうこの気持ち。
それを悟られるのが恐かった。

「オレ・・・・せー・・・が・・好き・・・」

「・・・!・・・」

微かに喉を振るわせる風のような囁きの告白。
聞き間違えたかのようにナルトの方を向く。
震える唇でもう一度問う。

「あ・・・え・・・今・・・なん・・・」

『なんて?ナルト』と言おうとした瞬間上から被せる様に今度ははっきり言う。

「オレ・・!せんせーが好きなんだってば・・っ」
実直なしかも素直な眼差しで。

信じられない・・・夢でも見てるのか・・・俺は・・・?
カカシはそう何度も頭の中でこの現実とも泡沫の夢ともつかぬ『今』を必死で受け止めようと、
ナルトの吸い込まれそうな瞳を見つめ続ける。


現実・・・・?


じゃあ俺も素直になっていいのか?ナルトには酷だと思っていたこの想いを、素直に解き放っても許されるのか?
それをお前は許してくれるのか?ナルト。


「せんせー・・・?やっぱ・・・イヤだったてば・・・?」


俯きナルトが離れていくかのような台詞を口にした瞬間、カカシははっと我に返る。
そして、ナルトの肩を抱き自分の方に向かせナルトの瞳を見て口を開く。
カカシから拒絶の言葉が返ってくるのが恐くてナルトは目を逸らした。


「ナルト・・・聞いてくれ・・・俺は・・・ずっとお前だけ見てきた。


それは先生が生徒をとしてみるのではなくて・・・だ」
俯いていたナルトが少し頭を上げる。その言葉の意味は・・・もしかしたら・・・もしかしたら・・・・。
ナルトの瞳が光を取り戻すかのように、潤んで輝く。


「そう・・・お前のことを・・・今までずっと見てきた。


でも、俺の気持ちは・・・お前を傷つけるだけにしかならないと思って・・・胸にしまってきた。
この先もそうしようと思っていた・・・・」

「せん・・・せ」

「でもダメだったー。あはは・・・。諦めようって思ったけど、無理だった。
今日久しぶりにお前と会って、俺の気持ち止まらなくなっちゃったよ」

「じゃ・・・せんせ・・・?」

「うん・・・多分ナルト・・・お前よりも、俺のほうが先にお前のこと『好き』だったよ」

ニコッと笑って友達でもない、先生でもない『好き』を伝える。

「もちろん・・・今も・・・ね」

西日で反射した銀の髪がまぶしくナルトの目に映る。
その流れる銀糸がスローモーションのように靡いた瞬間、
塞き止めていた熱い感情がナルトの胸の奥深くからこみ上げ幾筋もの涙になって溢れ出す。
もう言葉は要らなかった。
通う会う心と、抱合い流れ込んでくる体温。それだけで十分だった。
ナルトはカカシの胸で暖かい涙を流し続けた。

『嬉しいときは・・・泣いてもいいんだ・・・』


すこし冷えた秋風が金の糸と銀の糸を撫で、包み込んでいた・・・・。

                                     おわり



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