夜空に輝く月は・・・

        太陽の光がなくては輝けない・・・

        でも

        太陽は・・・

        月がなくても輝き続けられる・・・

        何故・・・

        月は存在するのか・・・

   (前編)

『キン・・・・』

細い金属音を立ててタバコに火をつけてカカシは肺の奥深くまで

紫煙を送り込む。

任務疲れのため息を隠すかのようにおもむろにうつむき煙を吐き出す。

「フー・・・・」

1ヶ月の暗部の仕事からもどり火影に報告を終えたその帰り

アカデミーの報告書受付窓口の入り口の前に差し掛かった。

「俺の生徒達も無事中忍になってはや一年か・・・」

まだそんなに時間的には経ってはいないのだが懐かしむかの

ようにそうつぶやくカカシ。

それぞれ独立してそれぞれの任務を命ぜられるようになって

早くも1年が経とうとしていた。

カカシは自分の生徒達を無事中忍選抜試験に合格させた後

元の暗部の部隊へと戻って変わらぬ日常を送っていた。

死と隣り合わせな日常。

それが暗部に任命された暗部隊上忍カカシの日常だった。

アカデミーの出入り口付近の木に体を預け再びタバコを口にする。

アカデミーの中からは任務を終えた中忍・下忍が忙しなく

出入りしている。

「ここに来るのは久しぶりだったな・・・」

サスケ、ナルト、サクラがそれぞれ中忍になってそれぞれの

任務をこなす様になってからは滅多なことでは会わなくなった。

久しぶりに会ってみたくなったのか、どうせ明日から休暇なのだからと

来るとは限らないかつての自分の生徒達の姿を探していた。

そう吸っていないタバコを地面に落とし靴の裏で揉み消す。

来るはずも無い光の色をした髪の少年。

無性にあの無邪気な清い青色の瞳が見たくなってつい寄ってしまった。

「ふ・・・」

かつて他人には興味を抱かなかった自分がこんなにかつての生徒達のことが

気になってしょうがない、らしくない自分がおかしくて不意に笑ってしまう。

なんだかその場にいるのが急に場違いな気がしてカカシはその場を立ち去ろうと

きびつを返した。

その時

「久しぶりだっては!!カカシ先生!!!」

「った!ナ・ナルトっっ!!」

来ないと思っていた光色の髪をした少年が目の前に立っていた。

思わず一歩、二歩と後ずさりをしてしまった。

「なーにカッコつけてタバコ吸ってんだってばよぉー!!」

バンバンとカカシの肩を叩きながら茶化すようにカカシに懐いて来る。

クルッとした大き目の青い目、太陽の光の色をした甘い匂いの髪

一瞬でカカシの胸の奥の熱い何かを呼び覚ます。

はんなりと微笑みくしゃくしゃと少年の頭を撫でる。

「元気だったか?ナルト」

ニカッと白い歯を見せてVサインを出し満面の笑みを見せるナルト。

「当ったり前だってばよ!俺はいっつも元気だってばよー!!」

いつもと変わらないナルトを見てカカシも笑みをこぼす。

「相変わらずドジ踏んでばっかなんだろ?」

「な!俺だって中忍になったんだってば!ドジなんてふんでないってばよ!

失礼しちゃうんだってばっ!」

腕を組み、ぶーたれるナルトに思わず笑がこぼれる。

「そっかそっか、悪かった悪かった。中忍殿」

自分の胸の位置までしかないナルトの目線まで腰を屈め、自分の目線を下げ

まるで拗ねた子供のご機嫌をとるかのようにナルトの髪をくしゃくしゃと

撫でる。

ナルトは子ども扱いされたことが悔しくて、自分の頭に乗っているカカシの手を

振り払うかのようにブルブルと頭を左右に激しく振った。

「それよりナルト、任務は終わったのか?報告書の提出時間もうじき締め切りだぞ?」

はっと我に返ったナルトは「やべっ!」と言い残しアカデミーの入り口までダッシュで走って

行った。

その様子を「やれやれ・・・」といった感じで見送るカカシ。

入り口の中に入る寸前でナルトがクルッとカカシの方を振り返った。

「カカシせんせーっ!今日後なんか予定あんのー?」

ナルトが手を大きく振りながらカカシに向かって呼びかける。

「いやー、ないけどー?なんでー?」

ついついつられてカカシも大きな声で答えてしまう。

「じゃーさぁー!そこで待っててくれってばよー!!

メシ食いいこーぜー!!」

予想外のナルトからのお誘いにちょっと嬉しくなったカカシだった。

当然答えは・・・

「OK−そんじゃーここで待ってっからー!早く出してこーい!」

よっしゃー!!といわんばかりのリアクションをしながらナルトは

急いで右手に持った半ばクシャクシャになった報告書を持ってアカデミー

へと消えていった。

数分後・・・

「お待たせだってばー。センセー!どこにメシ食い行く?」

久しぶりの再会で嬉しいのかナルトはうきうきしながらカカシの隣を歩く。

ニカッと笑うナルトだがカカシには少し痩せたように見えた。

ちゃんとまともな物を食べているのだろうか?と不安になる。

ナルトの偏食はよく知っていたカカシは耳の痛い質問をナルトに振る。

「ここ一年逢ってなかったから分からないけど。お前・・・」

じっとナルトの顔を見つめる

「な・なんだってば?」

「またラーメンしか食ってないってことないだろーな!?」

ギクッとした顔してすぐさま別の方向を見るナルト

「べ・べつにラーメンばっかって事ないってばよー・・・」

カカシはナルトを見下げ「そうかなー?」という目で攻める

「ひ・一人だったらメンドくってやってらんないってば・・・」

両手の指をモジモジさせながらブツブツと言い訳をする様子がなんだか

とても可愛らしく思えた。

やはり中忍とはいえ13才の少年。まだまだ子供っぽさは抜けていないようだった。

変わっていないナルトが嬉しくてカカシはにっこりと微笑み

「やっぱラーメンばっかなんじゃない・・・しょうがないなー。じゃあ今日は俺の手料理ご馳走してやるかー」

「ええー!なんでカカシ先生の手料理なんだってばー?」

「失礼だなー!?俺の手料理って旨いって有名なんだぞ?」

ナルトは苦虫を潰したような顔をしながら

「カカシ先生の料理ってば野菜中心だからヤなんだってばっ!

俺、野菜だっっっっ嫌いなんだってばー!!」

ごねるナルトの襟首を掴み、まるでイタズラ猫を捕まえるかのように

ヒョイッと持ち上げる。

「好き嫌いあったんじゃ立派な火影になれないでしょー?

さー!いくぞっ!!」

そう言いながらカカシはナルトを肩に背負い込んでその場を飛び去った。

「せ・せんせーっっ!どこ行くんだってばぁぁ??」

ナルトはカカシの走る速さにガクガクと揺さぶられながら必死に行く先を聞き出そうとする。

「俺ン家」

そう一言で片付けられ、ナルトはそのままカカシの背中にのったまま

カカシの家にお邪魔する形となった。

上忍のスピードはやはり中・下忍とは比べ物にならないくらい早く、気が付けば

あっという間にカカシの部屋の前に着いていた。

とはいえ、自分の足で飛び跳ねるのと、人の背中に乗って飛んでもらうのとは

大違いで、カカシの背中から降ろしてもらってからもしばらくナルトの頭はクラクラ

と平衡感覚を失っていた。

「ちょっと揺れたかな?大丈夫か?ナルト」

「せんせー飛ばしすぎなんだってばよっ!」

ちょっとムスッとしているナルトだったがじきに斜めだったご機嫌も

すぐに直ってくれたようだった。

「すぐに用意するからその辺でくつろいでろ。寝るなり、本読むなり好きにしていいぞ」

「え?せんせー俺も手伝うってばよ」

人付き合いがあまり無いのかナルトはカカシの部屋での自分の居場所に困っている様子だった。

しかし、今日カカシにとってナルトは大事なお客さんなのだ。

そのお客さんに手伝いはさせたくないと、台所に入ってきたナルトを180度

反転させソファーのある居間へ連れて行った。

そして3人掛けくらいの大きさのソファーにナルトをストンと座らせる。

「まぁここに座って休んでいろ。任務で疲れてるだろ?」

無理矢理座らせたカカシを見上げて負けじと言い返すナルト。

「そういう先生だって1ヶ月も任務だったじゃんか!俺のが時間的に短いし

先生よりも任務はラクだってばよ」

子供ながら気を使ってくれている元生徒が妙に可愛く思えた。

「いいのいいの。子供は遠慮しないもんなの。わかった?」

そういいながらニッコリ笑って振り返り後ろ手に手を振りながらカカシはキッチンへと消えていった。

見慣れない部屋をクルリと天井から見回すナルト。

「なんだか緊張しちゃうってば・・・」

そういいながら本棚らしきものがナルトの目に入ってきた。

本棚には先生ご愛読の「イチャイチャパラダイス」が上・中・下巻揃って

収まっていた。

『あ・・あの本』

見覚えのある本を見ながらその本にまつわる様々なカカシとのエピソード

を思い出す。

なんだか懐かしく思えてきて、昔のエピソードに思い出し笑する。

クスクス笑ってる声がかすかにキッチンにいるカカシにまで聞こえてきていた。

『何か笑えるものなんて置いてあったっけか?』と思いながらカウンターキッチン越しに

ナルトを見てみる。

キッチン側からはナルトの座っているソファーは背凭れとは対面になっていて

ナルトの表情はうかがい知ることは出来なかった。

でも、なんだか楽しそうにクスクス笑っているナルトについつい笑みが零れる。

「何笑ってるんだ?ナルト」

半ば自分の過去の思い出という妄想の中に入り込んでいたナルト。

不意にカカシの声で現実に戻され、キッチンにいるカカシの方にバット振り返る。

自分の世界で笑ってることに照れくささを感じたのかカリカリと頭を掻きながら

クスクス笑いの原因をカカシに話し出す。

「いやさ、この本見てたらさー、せんせーやサスケ達と修行してた頃の事思い出したんだってばよ」

一年前のスリーマンセルでの修行。カカシにも楽しい思い出。

初めての里を出ての任務、初めての人の死、悲しみ、任務をやり遂げた達成感、喜び。

死線で戦った仲間との夜遅くまでのお喋り。沢山沢山語り合った自分達の夢の数々。

そして今夢に一歩近づいた今、同志達は別々の道を歩みだしたばかり。

カカシはそんな夢に向かって歩んでいく生徒達を見届けてきた。

「そうだったな。あの頃によく読んでたな。その本」

「だよね!だよね!それでさ!!なんか急にその時の事頭ン中に“わー”って出てきてさ!

なんだか面白くって笑っちゃったんだってばよ」

まるで自分だけの宝物をこっそり大人に見せて自慢げに喜ぶ子供のような顔をしてナルトは無邪気にカカシに向かって笑って見せた。

それに釣られるかのようにカカシの表情も穏やかな笑みを浮かべていた。

『それにしても、相変わらず可愛い顔して・・・・・何も知らないで・・・・・』 

カカシは急にもどかしい気分になってナルトの目に付かない所で舌打ちするのであった。

伝えてはならない気持ちがカカシの胸中にくすぶっていた。

伝えた瞬間が終わりの時。

『人は空に焦がれ翼が欲しいとその翼を手に入れた。

大空を舞うことが出来るようになった人間はさらに高い宇宙(そら)へと恋焦がれる。

最初は浅はかだった人の願いは奇跡を生み、宇宙(そら)を手に入れた。

それなら俺の願いもいつかは届くのだろうか・・・?

「無駄な足掻きだ・・・」

カカシは己を嘲笑すると2・3度首を左右に振って今この現実に戻ろうと思考を戻そうとする。

「ん?カカシせんせー。なんか言ったってば?」

ついこぼしたカカシの独り言がはっきりとは聞こえていなかったみたいで、自分を呼ばれたのと勘違いしたナルトが

カカシに聞き返す。

「ううん、なんでもない。ただの独り言だよ。それより俺さ、ゴハンの用意する前に着替えてくるな」

カカシはそういい残し、クローゼットがある寝室へと向かった。

「うん、わかったってばー。おかまいなくだってばよー」

背中にナルトの声を受けながら、カカシは寝室へと入っていった。

適当に衣装ケースから普段着慣れた部屋義をとりだし着替え始める。

その間もカカシはナルトの事考えていた。

ナルトの目の前にいるときはその時間が楽しくて、満たされているからかえってナルトの事は胸が熱くなるほどまで

考える事はない。

しかし、一瞬でも一人になってしまうと、熱い気持ちが溢れどうしようもない愛しさと、虚しさに襲われてしまう。

あのブルーダイヤ瞳と金色の髪に恋してしまったときから、カカシは一人の時間が嫌で堪らなかった。

駄目だと分かっているから・・・・自分ではあの子を幸せにしてあげることが出来ないと分かっているから・・・・。

分かっているからどうしようもなく寂しくなる。どうしようもなく恋焦がれてしまう。どうしようもなく・・・。

「忍者失格だな・・・」

フッと笑みをこぼし、カカシは着替えを済ませキッチンへと戻ることにした。

「ナルトー?悪い、今すぐにメシ作ってやっからなー」

と、いそいそとキッチンへ足を運びながら居間で待ってくれているナルトに呼びかける。

「・・・・・・」

「ナルト・・・?」

ソファーからはナルトのすこし小さめの頭が覗いている。存在は確認した。聞こえているはずなのに返事がない。

どうしたものかとソファーの表側に見に行くカカシ。

「ナルト・・・?」

もう一度呼びかけてみる。

ナルトは規則正しい寝息を立てて眠りに付いていた。

まだあどけない少年は、柔らかなソファーに身をあずけ昏々と眠っていた。

思わずその愛らしい寝顔に魅入られる。

半開きになった唇。まだ大人になりきれないふっくらとした頬。ちいさな顎。閉じられた大き目の瞳。サラリとした柔らかな髪。

そして、甘く漂ってくるナルトの髪の匂い。

全てが愛しく、甘く、そして魅了される。

つい、声をかけるのも忘れて見入ってしまう。息をすることも忘れてしまうほど・・・。

「あ・・・・か・・・わいぃ・・・」

理性という足かせが一瞬外れかけそうになった瞬間思いがけないことを口にしてしまった事を、頭の中の覚めた自分が警鐘を鳴らす。

自分が言った言葉なのに、思わず顔が煮え立つように赤くなり、思わず自分の口にバンソーコーでも張るかのようにパシッと口元に

慌てて手を当てる。

「なっ・・・何言ってんだ俺っ!冷静になれカカシ!!この子は教え子!!!そんでもってその前にこの子は男の子なんだぞっっ!!」

百戦錬磨と謳われ、抱いた女は星の数とまで言われたカカシが13歳の少年の前では肩なしだった。

向日葵のような笑顔を振りまくこの少年に参ってしまっているのは、なにもカカシだけではなかった。

密かに里の中・上忍の間ではナルトのことは常々噂になっていた。

こういった噂話に耳聡いカカシのことだ。

今までに何人もの良からぬことを考えてナルトに近づこうとする輩どもを悪友アスマと共に徹底的に排除してきた。

しかし、この少年が光を放てば放つほどその輩の数は日に日に増すばかりだった。

カカシの悩みは尽きなかった。

カカシの悩みはそれだけではなかった。

「好き」という一言さえこの少年の前では口に出せなかった。

それがもどかしくて、やるせなくて、辛くて、悲しくて、虚しくて・・・。

一番の敵は得体の知れぬ輩どもではなく自分なのであった。

「はぁ・・・一言・・・言えたらなぁ・・・・こんなに辛い思いしなくてもすむのになぁ・・・・」

切なげにポツリと呟く大人一人。

何も知らずに眠る少年一人。

白いソファーでは静かな戦いが繰り広げられていた・・・・。                      つづく








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